濃紺に染まる赤を追え。
「……昼寝してた」
「そう」
「夢を見た」
「夢?」
聞き返すと桐谷は瞳を揺らす。
「怖い夢。大切なものが離れていく夢」
「……そっか」
「そしたらいきなり降ってきた」
くあ、と欠伸をしながらそう言った桐谷は、徐々に焦点が合ってきたみたいだ。
ガタンゴトン、電車の音が雨に紛れて微かに聞こえる。
雨の日の電車って、満員だし床がべたべただし嫌いだな、と。
全然関係のないことを、頭の片隅で考えた。
「濡れてる」
不意に伸びてきたのは、中指にシルバーリングをはめた右手。
もはやバケツをひっくり返したように降っている雨で、お風呂上がりも同然だった。
するっと、二つ結びを解かれる。