濃紺に染まる赤を追え。
べたべたに濡れて、いくつかの束になった黒髪が肩に広がる。
毛先から雨がしたたっていた。
何をするでもなく、されるがまま。
他のところより少し短い顔周りの髪が頬に張り付いてきたのを知りながらも、払うことはしなかった。
「……よっこ」
小さく押し返された傘。
それに首を横に振る。
「今さら、だよ」
ふふ、と息を吐くように笑う。
もうすでに傘なんて無意味だ、と髪の毛先を揺らすと水滴が落ちた。
前髪はもう、うねるのを通り越して、おでこにぴったり引っ付いていた。
「俺も今さら、なんだけど」
「うん、そうだね」
ぺたりとしぼんだシルキーアッシュの髪を眺めて言うと、心なしか桐谷は目を細めた。
絶え間無く、雨は降る。
「……クリスマスみたい」
ふと聞こえた季節外れの単語に首を傾げた。
すると桐谷は、一瞬視線を下に落として、またわたしを見る。
「カーディガンと傘。緑と赤」
「……あ、本当だ」
言われてみれば、と頷くと嬉しそうに口角を上げる。