濃紺に染まる赤を追え。






――――――――――――――

――――――――――




「いらっしゃい、……って、あら?」


雨か涙か、よく分からない水滴が、その優しい顔を滲ませていた。

心地好い冷気を感じる。


「あらまあ、びしょ濡れじゃない」


柔らかく、温かい手に腕を引かれた。

ぐしょぐしょのハイソックスで保健室の中へ入る。


「ほらほら、可愛い顔が台無しよー?」


真っ白のタオルで顔を拭かれた。

柔軟剤の匂いが離れていく、と思ったら、よし、と満足げに微笑む先生の顔がはっきりと見える。


「あ、ジャージ出そっか。キャミ透けちゃってるしね」


わしゃわしゃとわたしの髪を拭きながら、にこりと微笑む。

何があったの、と聞かない先生の優しさに包まれたようで。

わたしは小さく頷いた。


「じゃあ、ちょっとそこ座っててー。出してくるから」


言われた通り、指差された椅子に座る。

ぼんやり、薬品が並べてあるガラス棚を眺めていると、先生はジャージを抱えて戻ってきた。





< 109 / 192 >

この作品をシェア

pagetop