濃紺に染まる赤を追え。
街灯の光は弱かった






「……桐谷?」


ギイ、青いドアを開けながら呟いた。


けれど。



「……あれ?」


雲ひとつない青空。

アスファルトで照り返す日差し。

時折吹く生温い風。




そこに、見慣れたグリーンのカーディガンは無かった。




珍しい、と思いながらいつも桐谷が座っている辺りに腰を下ろす。

ぼんやり、空を見上げてみるけれど、ただ暑いだけで。

日焼け止め塗ってないな、と頭の端で思った。


スカートのポケットに手を突っ込むと、指先が何かに触れた。

そのままそれを出してみると、未開封のキャラメルが二個。


昨日渡しそびれたものと、今日渡すはずだったもの。


どうしようかと迷い、一個だけ包み紙を取り、口に含んだ。

独特の甘ったるさが広がる。

歯に引っ付く感じが好きじゃなかったから、噛まずにただ舐めていた。

でも、やっぱり好きにはなれず、もう一個は食べてもらうことにした。

桐谷が来るかどうかは謎だったけれど。



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