濃紺に染まる赤を追え。
ゆるり、柔らかな風が吹く。
二つ結びの黒髪が、それと合わせて小さく靡いた。
じりじりとコンクリートを焦がすように照り付ける太陽。
昨日の雨が嘘みたいだ。
「……あっつー……」
こんなにも暑いと、さすがに夏だということを認めざるを得ない。
そう思った途端、どういうわけか、さらに日差しが強くなったように感じた。
屋上にいるただ一人、わたしだけを狙うようなソーラービーム。
「駄目だ、……暑い」
耐え切れず、立ち上がる。
伸びをひとつして額を手の甲で拭うと、じんわり、髪の生え際に汗をかいていた。
手の平に乗ったままだったキャラメルを一瞬見て、コンクリートの上に置いた。
溶けるかもしれないけれど、それはわたしの知ったことじゃない。
口の中はいまだに独特の甘ったるさに支配されていて、日差しの暑さとのダブルパンチで、少し目眩がした。
ガタンゴトン、電車の音を聞きながら一歩踏み出す。
ギイ、バタン。
錆び付いた音を立て、閉まったドア。
不思議なことに、そのドアの向こうとこちらが、今日は同じ世界に思えた。
つまりきっと、桐谷がいるからこそ、屋上は輝いて見えるんだ。
「……魔法みたい」
呟きは、誰もいない三限目の廊下に消えた。