濃紺に染まる赤を追え。
「次、三限目だよ」
言われて勢いよく顔を上げる。
時計はあと2分で授業が始まる時間を指していた。
「ほんとだ……」
呟いて、立ち上がる。
と同時に、自分の失態に気が付いた。
「あのっ、堤くん、真っ白、ノート……!」
口から出てきた単語だけを並べて告げる。
今から三限目だということは、さっきは二限目だったわけで。
本来なら堤くんにノートを渡さなきゃいけなかったのに。
両手を合わせて、ごめんね、と半ば叫ぶように言えば、堤くんはいつもの爽やかな笑顔を見せた。
「いいよいいよ、また他の人に借りとくから」
「本当にごめんね……っ!」
申し訳なくて、顔が上げられない。
最悪だ、わたし。
「いいって。それより松村、もうチャイム鳴るよ?」
どこまでも優しい堤くんにそう言われ、何度も頭を下げながら廊下に出た。