濃紺に染まる赤を追え。
教室へと戻っていく人波に逆らい、廊下を歩く。
授業開始のチャイムを聞きながら、先生とすれ違うたびに会釈した。
窓は全開になっていたけれど、クーラーの効いていない廊下はサウナみたいに暑い。
階段の手摺りに体重を預け、さあ上ろう、と思ったけれど。
そこから一歩踏み出すことができなかった。
――あれから、二週間。
桐谷の顔は見ていない。
「あら、今日も来たの?」
ドアを開けた途端、見えた優しい笑顔。
言い訳を考えつつ、独特の匂いとほどよい冷気の中に足を踏み入れた。
「えっと、……生理痛、ひどくて」
結局、いいものが思いつかなくて、二週間前と同じことを述べた。
「長引くねー、生理痛」
けらけら笑いながらペンを動かす先生は、これが仮病だと知っているであろうに、何も言ってこない。
居心地が良すぎるこの場所に、毎日わたしは逃げてくるのだ。
「あそこのベッド使ってていいわよー」
「ありがとうございます」
指差されたのは最近の指定席。
慣れたそこに潜り込むと、先生が白いカーテンを閉めながら
「そろそろ違う言い訳、考えといてね」
そう笑った。