濃紺に染まる赤を追え。




そして再開される教室内での野球。

それを横目に、わたしはよたよたと窓際の自分の席へと戻った。


「お疲れさま」

「あ、ありがとう」


ノートを差し出しながら微笑む堤くんに、ぎこちなく笑い返す。


「おでこ大丈夫? 痛くない?」

「うん、大丈夫」


堤くんは心配そうに眉を下げるけれど、恥ずかしいところを見られてしまった、とわたしは苦笑い。

話を逸らすようにノートを受け取ると、何故か二限目のノートもあった。


「これ……?」

「俺、さっき他の人に借りて写させてもらったからさ、松村もどうかなって思って」


さっきの授業、ノート真っ白なんでしょ?

そう付け足された言葉に大きく頷いた。


「ありがとう、堤くん」


なんだか悪いなあ、と思いながらもそう言うと、堤くんはいつもの爽やかな笑みを浮かべた。

すぐ後ろでは、きっと誰かが打ったのだろう、パコーン、と快音がした。



けれど。




「あっ、やべ!」


教室に響いたそんな声。

驚いて振り向けば、一点に視線を向けている男の子たち。

バッターだった人は、ペットボトルを振り切ったままのフォームで固まっている。


ゆっくり、わたしもみんなの視線を辿る。




その先にあったのは、ドアと、シルキーアッシュ。




どくん、心臓が大きく脈を打った。




< 134 / 192 >

この作品をシェア

pagetop