濃紺に染まる赤を追え。
そして再開される教室内での野球。
それを横目に、わたしはよたよたと窓際の自分の席へと戻った。
「お疲れさま」
「あ、ありがとう」
ノートを差し出しながら微笑む堤くんに、ぎこちなく笑い返す。
「おでこ大丈夫? 痛くない?」
「うん、大丈夫」
堤くんは心配そうに眉を下げるけれど、恥ずかしいところを見られてしまった、とわたしは苦笑い。
話を逸らすようにノートを受け取ると、何故か二限目のノートもあった。
「これ……?」
「俺、さっき他の人に借りて写させてもらったからさ、松村もどうかなって思って」
さっきの授業、ノート真っ白なんでしょ?
そう付け足された言葉に大きく頷いた。
「ありがとう、堤くん」
なんだか悪いなあ、と思いながらもそう言うと、堤くんはいつもの爽やかな笑みを浮かべた。
すぐ後ろでは、きっと誰かが打ったのだろう、パコーン、と快音がした。
けれど。
「あっ、やべ!」
教室に響いたそんな声。
驚いて振り向けば、一点に視線を向けている男の子たち。
バッターだった人は、ペットボトルを振り切ったままのフォームで固まっている。
ゆっくり、わたしもみんなの視線を辿る。
その先にあったのは、ドアと、シルキーアッシュ。
どくん、心臓が大きく脈を打った。