濃紺に染まる赤を追え。
「きゃーっ! 蓮じゃんっ!」
「ちょっと、蓮の顔に傷でも付いたらどうすんの!」
「だいじょーぶー?」
一気に騒がしくなった教室。
意外とあれ、当たると痛いんだよね、なんて呑気なことを考えてみるけれど、鼓動は速くなるばかり。
女の子の波に飲まれていく桐谷が、足元に落ちていた紙ボールを拾うところがちらりと見えた。
「地味に痛い、これ」
二週間ぶりのテノールがそんな感想を述べる。
男の子たちはへらりと笑いながら、ぺこぺこと頭を下げて受け取っていた。
ああ、どうしよう。
「……桐谷、だ」
ぽそっと落とした呟きは喧騒に掻き消される。
ちらりとわたしを見た堤くんには、もしかしたら聞こえたのかもしれない。
「珍しいねー、蓮が来るなんて!」
「まあ、気分」
「ねー、おでこ大丈夫?」
「ん、大丈夫」
廊下側、一番前の席。
悠々と女の子たちを引き連れて、その席に向かう後ろ姿。
それが、あの日と重なって見えた。
「あの子と同じ当たり方してたよー?」
妖艶な弧を描いた桜色、甘ったるい視線。
「……あの子?」
桐谷がこちらを見た途端、一変したあの日のそれ。
無機質で冷たかったあの視線。
来るなと語っていた視線をもう見たくない。