濃紺に染まる赤を追え。
「松村は? 行ってる?」
「わたしも行ってないよ。どこの塾がいいのか、よく分からないし」
「そうだよなー」
しとしと、しとしと。
雨音は単調なリズムを刻む。
「……、堤くん」
少しの沈黙のあと、水滴のついた窓をちらりと見て、名前を呟く。
すると、わたしの顔を覗き込むように堤くんは首を傾げた。
「ん?」
「あの、わたし日誌書くから、帰ってくれていいよ?」
正直、見られながら書くのって慣れてないし。
そう続けて言えば、堤くんは困ったように眉を下げる。
「でも、いつも書いてもらってたし、今度から俺が書くよ」
「いいよいいよ、戸締まりしてもらってるし」
すぐ横の窓を指差すと、さらに堤くんは眉を下げて、そして苦笑いとも言えるような吐息を漏らした。
「じゃあ、……お願いしていい?」
「うん」
ありがとう、と言ってエナメルバッグを肩に掛けて立ち上がる。