濃紺に染まる赤を追え。
ドアへと向かうその後ろ姿に、ひらひらと手を振っていると、堤くんは不意に足を止めた。
どうしたのだろう、と不思議に思いながら首を傾げると。
振り返った堤くん。
ばっちり絡む視線。
どこか真剣な、いつもと違う雰囲気に、瞬きさえ出来ない。
「……あのさ、松村」
「ん?」
言葉を慎重に選んでいるらしく、口を開きかけては閉じる。
それの繰り返しを数回。
ようやくまとまったのか、ばっと顔を上げて、堤くんは言った。
「……何もせずに諦めたら、絶対後悔すると思う」
思わず目を見開いた。
何のことを言っているかなんて、その切なげな笑顔を見たら分かる。
「振られた俺が言うのも、変な話なんだけどさ」
「……つつみ、くん」
なんという表情を、させてしまっているのだろう。
お願いだから、そんな偽りの笑顔は見せないで。
そう言えないのは、すべての元凶がわたし自身だと理解しているから。
「正直、見てられないんだ。……松村の悲しそうな顔は」
ぎゅっと、ストライプ柄のシャーペンを握りしめる。
「笑っててくれたら、俺はそれだけで十分だから」