濃紺に染まる赤を追え。




―― “だから、松村、笑って”




教室は静寂に包まれていた。

わたしがシャーペンを動かす音だけが響く。


脳裏にちらつくのは、去っていった堤くんの後ろ姿。


わたしがいつまでもはっきりしないから。

あんなことを言わせてしまった。


それなら尚更、いっそう早くこの気持ちを消さないと。


そう、強く思う。






「……失礼します」


軽くノックして職員室に入ると、今日もふくよかなお腹を携えて、豚まんはゼロカロリーと大きく書かれたゼリーを食べていた。

ついにダイエットにでも目覚めたのだろうか。


「おー、松村」


日誌を渡すと、交換するかのようにキャラメルを渡される。

それをいつものようにスカートのポケットに突っ込もうとすると、そこには未開封のままのキャラメルが大量に溜まっていて。


ああ、そうか。

消費されないとこういうことになるんだっけ、と。


他人事のように思いながら、無理矢理ポケットに押し込んだ。



< 145 / 192 >

この作品をシェア

pagetop