濃紺に染まる赤を追え。
「そうだ、松村」
「はい?」
「今日保健室行ってたんだよな?」
そうですけど、と頷く。
「もう大丈夫なのか?」
「はい」
もう一度頷くと、豚まんは納得したみたいで、身体に不釣り合いな小さなスプーンでゼリーをすくった。
何か言われるかと思ったけれど、やっぱり優等生ぶっていると楽なもので。
それ以上、深く追及されることはなかった。
小さく頭を下げてから、くるりと身体を反転させて、ドアへと向かう。
「失礼しましたー……」
適当にそう言って、鞄を肩に掛け直す。
ほとんどの生徒が帰っていった後の校舎は、静まり返っていた。
わたしのスリッパの音だけが、やけに大きく廊下に響く。
窓の外は、相変わらずの天気だけれど、雨脚はさっきより弱い。
折りたたみ傘でいけそうだな。
鞄に入れてあったよね。
そう思い、鞄を開けようとして。
「……あ」
そういえば、傘。
わたしの赤い折りたたみ傘は、いつか彼に差し出したままだ。
本当についてない。
そうやってまた、彼の欠片を見つけてしまう。