濃紺に染まる赤を追え。



滲んでいく視界。

頬が冷たいのは、雨のせいか、涙のせいか。

ただ、手首に感じる温かさだけが異質で。


「よっこ」

「っ、」


再度呟くように落とされた、わたしの名前。


桐谷はずるい。



「……よっこ」



そう呼ばれたら、わたしが抗えないのを知っている。


馬鹿正直に、抵抗するのをやめてしまうわたしの本能。

固く握り直された手首。


ああ、もう。

反則するにも程がある。


まだ、少しも諦められていないのに。

そんなに寂しそうに呼ぶなんて。



「……き、りたに」

「うん」

「きりた、に」

「うん」



桐谷は、ずるい。


周りには綺麗な女の子がたくさんいるのに。

想いを消そうとした途端、それを許すまいと現れる。

そして、わたしは都合の良いように使われて、また容赦なく落とされるのだ。



< 150 / 192 >

この作品をシェア

pagetop