濃紺に染まる赤を追え。
滲んでいく視界。
頬が冷たいのは、雨のせいか、涙のせいか。
ただ、手首に感じる温かさだけが異質で。
「よっこ」
「っ、」
再度呟くように落とされた、わたしの名前。
桐谷はずるい。
「……よっこ」
そう呼ばれたら、わたしが抗えないのを知っている。
馬鹿正直に、抵抗するのをやめてしまうわたしの本能。
固く握り直された手首。
ああ、もう。
反則するにも程がある。
まだ、少しも諦められていないのに。
そんなに寂しそうに呼ぶなんて。
「……き、りたに」
「うん」
「きりた、に」
「うん」
桐谷は、ずるい。
周りには綺麗な女の子がたくさんいるのに。
想いを消そうとした途端、それを許すまいと現れる。
そして、わたしは都合の良いように使われて、また容赦なく落とされるのだ。