濃紺に染まる赤を追え。
そんなのはもう、嫌なんだ。
「……桐谷なんて、嫌いだよ」
絞り出すように、精一杯の嘘を吐く。
自分の手を思いっきり握りしめると、短い爪が手の平に食い込んだ。
しとしと、しとしと。
降り注ぐ雨で濡れたカッターシャツは、素肌に纏わり付く。
わたしなりの拒絶を伝えたつもりだったけれど、手首が離される気配はない。
ただ、時が過ぎるのを突っ立って見ているだけだった。
「……じゃあ、」
突然滑り落ちた、吐息のような小さな声。
雨音に消え入りそうなそれに、耳を澄ます。
「じゃあ、俺はどうしたらいい?」