濃紺に染まる赤を追え。
「……え、」
間抜けな、掠れた声が出た。
ガタンゴトン、電車が走っていく音がする。
コンクリートの上に出来た無数の水溜まりは、雨が落ちるたび、波紋を作った。
「距離を置いたほうがいいと思ったんだ」
「……」
「よっこにこれ以上、こっちに来てほしくなかった」
「……っ」
「でも、よっこが探しに来てくれないと、寂しくてどうしようもなくて。隣にいてほしくて仕方なくて」
しとしと、しとしと。
雨の音が、聞こえる。
「嫌いとか、言うな」
頭の中が真っ白になった。
うだうだと考えていたことが、全部吹っ飛んで。
からっぽで当てにならない脳を放って、思うがままに口が動いた。
「……嘘、だ」
「嘘じゃない」
「嘘だよ」
「本当だよ」
「嘘だよ、そんなの……っ」
揺れた黒髪の先から、水滴がしたたる。
「だって、だって、桐谷は知らないでしょ……?」