濃紺に染まる赤を追え。




ぐちゃぐちゃだ。


コンクリートに落とした視線。

滲んで、どこに水溜まりがあるのか分からない。


「嫌いになろうと思ったのに、全然嫌いになれなくて」

「……」

「忘れようとしても、全然忘れられなくて」

「……」

「どんなときも桐谷のことばっかり考えてて」

「……っ、」

「好きで、好きで、仕方なくて、頭に焼き付いて離れないことなんて、知らな……っ」



ハイソックスは雨をいっぱい含み、体温と溶け合って。


びちゃり、水溜まりは歪む。






「……じゃあ、よっこも知らないでしょ」



背中に感じる温もり。

耳元で聞こえるテノール。

顔をうずめられた首筋。

雨音は消えて、静かな心音がする。

視線を落とせば、お腹にまわったグリーンの腕が目に入った。



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