濃紺に染まる赤を追え。
「俺が毎日、三限目のためだけに学校に来てることも」
「……」
「探しに来る口うるさい学級委員に、構ってほしくて堪らないことも」
「……っ、」
「こうやってずっと触れたかったことも、本当はめちゃくちゃに壊したいってことも」
濡れたシルキーアッシュが頬に当たる。
耳にかかる吐息が熱くて、どうにかなってしまいそうで。
「よっこのことが好きで、好きで、仕方ないってことも」
ああ、もう。
頭の中、真っ白だよ。
「……なに、それ」
有り得ないくらい、鼓動が速い。
桐谷に伝わってしまうんじゃないかと思って、少し身をよじれば、ぐっと引き寄せられてしまった。
「……よっこ」
不意に、囁かれた名前。
今だけで寿命が縮まっている気がする、と思いながら首を傾げる。
「さっきの、本当?」
ひそひそと、まるで内緒話みたいに耳元で桐谷は言った。
さっきのって何だっけ、と回らない頭で考える。
「俺のこと好きって、本当?」
もう一度聞こえたテノールに、反射的に頷いた。