濃紺に染まる赤を追え。
「――……っ」
初めて知ったことばかりだ、と思う。
桐谷がわたしのことを好きでいてくれたことも。
わたしがこんなにも桐谷のことが好きだったことも。
気持ちを言葉で表現できないときは、涙が溢れるんだってことも。
滲んでいた視界を一掃した。
涙を拭った手の甲は、雨で濡れていたこともあり、べたべただった。
「あ、雨」
止んでる、と呟いた桐谷。
そうだね、と返すわたし。
雨を降らしていた雲はどこかに消え、あたりは濃紺に包まれていた。
「……よっこ」
「ん?」
「こっち向いて」
唐突に囁かれると同時に、緩まる桐谷の腕の力。
「ど、どうして?」
「んー、どんな顔して俺のこと好きって言ってんのかなって思って」
「え、無理無理無理……!」
こんなぐちゃぐちゃな顔、見せられるわけがないでしょ、と。
ぐっと目を瞑ったときだった。
「あ、白鳥」
耳元で聞こえたその声に反応してしまったわたし。
ぱっと目を開けば、一瞬絡んだ視線。
どこに白鳥なんているの、と聞こうとしたけれど、その言葉は桐谷の桜色に呑まれる。
触れるだけのキスは、儚くて、優しかった。