濃紺に染まる赤を追え。
「……はは、ださ」
そっと離れた桐谷は、今まで見たことないぐらい、楽しそうにそう言って自分の両手を見ていた。
「震えが止まらない」
「え」
「よっこが可愛すぎて」
「な、なに言ってるの!」
微かに震えていた桐谷の両手をそっと掴みながらそう言うと、桐谷はゆっくりと息を吐いて。
穏やかで、優しい笑顔を浮かべていた。
その顔を見たら、ぎゅうっと胸の奥が暖かくなって、なんだかすごく嬉しくて、わたしは涙でぐちゃぐちゃの顔で笑った。
「……笑った」
「え?」
ぼそりと落とされた呟きが、上手く聞き取れなくて首を傾げれば。
桐谷は眉を下げて、泣きそうな顔をして、こう言った。
「よっこ、好き」
シルキーアッシュの向こうにちらりと見えたのは、燃えるような赤い太陽。
ビルの間に沈んでいったそれは、残像としてまぶたの裏に焼き付く。
触れ合った唇は、桐谷の温もりが移ったように、いつまでも熱いままだった。