濃紺に染まる赤を追え。
きっと世界は虹になる
「ちょっと、あんた」
鞄を机に降ろした途端、がっしり、肩を掴まれた。
何事かと振り向けば、珍しく息を切らしたナミさんがいて。
「あ、おはよう」
「うん、そんなのまじでどうでもいいから、座れ」
「……はい」
慌ただしい人だな、ナミさんってそんなキャラだったっけ。
ぼんやりそう思いながら椅子に座ろうとすれば、
「なに座ろうとしてんの、こんなときに」
なんとも無茶苦茶な言葉を浴びせられた。
結局どっちなの、と眉を寄せてみせたけれど、そんなの気にしないとでもいうように、ナミさんは口を開いた。
「蓮と付き合ったって、まじ?」
ああ、やっぱり。
さっきから、周囲から好奇の視線が突き刺さっているのは自覚していた。
「朝からこの噂と、蓮が全部の女と手を切ったって情報で持ち切りなんですけどー」
ナミさんの言葉に、目を丸くする。
後者は初耳だった。
あの桐谷が、そこまでしてくれるなんて思わなかったから、余計に驚いて。
「で? 結局のとこどうなの?」
まるで尋問のようだと思いながらも、つい、頬が緩む。
小さく頷くと、ナミさんは一瞬動きを止めたあと、ふーん、と抑揚のない声で言った。