濃紺に染まる赤を追え。
「あっそう」
その声は、あまりにもつまらなさそうで。
興味がないんだったら聞いてこなきゃ良かったのに、と口を尖らせたときだった。
「おはよう、松村」
「あ、堤くん、おはよう」
にっこり、微笑んだ堤くんに笑顔を返す。
朝から爽やかだ、と見上げていると、堤くんはさらに笑みを深めた。
「そうだ、聞いたよ」
「……え?」
何を、と首を傾げれば、堤くんは少し寂しそうに眉尻を下げて言う。
「桐谷のこと、良かったね」
ナミさんは飽きたのか、堤くんの席にどかっと腰掛けて、枝毛探しを始めていた。
それなら自分の教室に帰ればいいのに、と思うけれど、言う勇気はない。
「えっと、ありがとう。堤くんのおかげだよ」
「いや、俺何もしてないよ」
にっこり微笑んだ堤くんは、その後思い出したように肩に掛けていたエナメルバッグを漁りはじめた。
どうしたんだろうと思いながらじっと待っていると、あったあった、と声がする。
「これ面白かったんだけどさ、読む?」
それは一冊の文庫本。
見たことのあるタイトルは、わたしも気になっていたもので。
「え、いいの?」
「うん、どうぞ」
「わー、ありが……」
「だーめ」