濃紺に染まる赤を追え。




すぐ耳元で聞こえたテノール。

受け取ろうとしていたわたしの両手は、中指にシルバーリングをはめた右手によって、ひとまとめにされていた。


「こういうの、他の男から借りるの禁止」


それに反論しようとして顔を上げると、予想通りのシルキーアッシュ。

でも、あまりの近さに思わず口を噤んでしまう。

大人しく頷けば、満足そうに頭を撫でられた。


「意外と独占欲強いんだな、桐谷って」


くすくすと、笑い声混じりの堤くん。

初めて見る悪戯っ子のような笑顔に固まっていると、


「こいつから借りるのは論外だから」


また耳元でテノールが言った。

聞こえてたのか、とまた笑う堤くん。

そしてナミさんがこっそり口角を上げたのを、わたしは見逃さなかった。


笑われたのが気に食わなかったのか、物騒にも舌打ちが聞こえる。


「そういえば、一限目って何だっけ?」


いまだ口元に笑みを浮かべて、堤くんがわたしを見る。

時間割を慎重に思い出しながら、口にした。


「たしか、数Cじゃなかったかな」

「え、無理」


即座に返ってきた反応。

そっと後ろを向けば、眉間に皺を寄せた桐谷。


「数Cやだ」


そんなこと言われても、と今度はわたしが眉間に皺を寄せる番だった。



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