濃紺に染まる赤を追え。
「ってわけで、よっこサボろ」
「……え?」
首を傾げた途端、引かれた手首。
ちょっと、ちょっと待って。
わたしたち、仮にも受験生なんだけど。
そう抵抗しようと思い、咄嗟に掴んだナミさんの腕。
いきなりのことに驚いたのか、椅子から少し浮いたナミさんの腰。
その瞬間。
揺れたナミさんの髪とともに、柑橘系の爽やかな匂いがした。
思わず立ち止まると、桐谷も足を止める。
「ナミさん、香水……」
変えたの、と続ければ、ああ、なんて気の抜けた返事。
「前のやつがちょうどなくなったから。イメチェン、みたいな?」
そう言ってナミさんは、今まで見てきた中で一番穏やかな顔で笑った。
だからわたしも、お返しとばかりに微笑んで言ってみた。
その香水いいね、と。