濃紺に染まる赤を追え。
不意に立ち止まる桐谷。
ぶつかりそうになって、慌ててわたしも足を止める。
グリーンのカーディガンの向こうに見えたのは、青いドア。
気付かぬうちに、階段は上り終えていたらしい。
「じゃあ、三限目」
「……え?」
「三限目は、探しに来てよ」
ゆるり、ゆるり。
鼓膜を振動させたテノール。
妖艶に弧を描く桜色。
無造作に整えられたシルキーアッシュ。
耳で輝くルビー。
中指にシルバーリングをはめた右手。
そのどれもが愛しくて。
首を横に振ることなんて、出来るわけがなかった。
桐谷が開けたドアの向こう。
雲ひとつない空の下。
今日もわたしは、彼を探しに行く。
―fin―