濃紺に染まる赤を追え。
番外編SS
後引く甘さの桜色
「よっこ」
「う、わ」
青いドアを開けた途端、目の前に広がったのはグリーン。
抱きしめられている、と少し恥ずかしくなったのは束の間。
「桐谷、くるしっ」
ぎゅうっと音がしそうなほど強くなった腕の力にギブアップ。
小さく言うと、いきなり緩まる力。
ガラス細工でも扱うかのような優しいものに変わり、逆に羞恥心を煽る。
なんというか。
いまだにこれは慣れない。
「よっこ」
「うん」
「よっこー」
「ん、なに?」
顔を上げて首を傾げれば、突如暗くなった視界。
ちゅ、と小さな音を立てて離れていく桐谷。
「あ、真っ赤」
「……!」
どうやら彼は、ご満悦の様子。
口角を上げて目を細めて、わたしの頬をするりと撫でると、キャパシティーオーバー中のわたしを放って、ゆらりゆらりと歩いていってしまう。
そして、いつもの位置に腰を下ろして両手を伸ばす。
「よっこ」
……心臓、持つかな。
パタパタと、自分の顔を冷やすように手で扇ぎながら、じりじりと歩み寄ってみる。