濃紺に染まる赤を追え。
桐谷蓮はこのクラスの問題児だった。
授業は出ない、女子をつまみ食いする、テストは常に赤点、なのにどこか目を離せない。
そんな問題児が真面目で優等生の松村と付き合うことになるとは、誰も思っていなかっただろう。
松村と付き合い出してから、桐谷は少し落ち着いたと言っていいと思う。
授業は三限目以外ちゃんと出るようになったし、夏休み中の模試にも来ていたし、何より他の女子に対して一線を引くようになった。
その代わり、松村にべったりになっているけれど。
そしてそれが俺の中では大きな問題なわけなんだけれど。
「松村」
後ろ姿に声を掛けると、シャーペンを持ったまま振り向く。
そんな松村の視線を追うように桐谷も一緒に振り向いて、俺を見て明らかに顔をしかめた。分かりやすいなお前。
「ん? どうしたの堤くん」
「その問題なら、こっちの公式使った方がやりやすいかも」
「あ、そっか。確かに式も単純になるし分かりやすいね」
「うん、それで一回解いてみて」
「ありがとう、堤くん」