濃紺に染まる赤を追え。
ふわりと笑った彼女に、ふわりと笑い返す。
それだけで胸がぎゅっとなる。
「桐谷、こっち使ってみて。多分解きやすいと思うから」
「えー」
「えーじゃないよ」
「はーい」
完全に手懐けられている桐谷は、そう言いながら素直に問題を解き始めた。
今までのことを思うと、これだけ素直に桐谷が机に向かうのは凄い。
「……なんか、意外だな」
「え?」
小さく呟いた声に、松村が首を傾げる。
「いや、松村と桐谷って上手くいってるなって思って」
「そうかな」
不思議そうに、しかし少し照れたように笑う松村。その小さな笑い声が、耳をくすぐる。
うん、分かってるって、睨むなって桐谷。
分かってるけれど、これは好きだった身としてはなかなかに心が揺れる。
「松村」
小さく呼んだ。ん?と首を傾げる松村に、眉根を寄せる桐谷。
「良かったね」
ああ、この言い方は少し嫌味っぽかったかな。でもこうとしか言い様がないから。
机から身を乗り出して、その額にそっとキスをした。
―fin―
額に手を当ててぽかんと口を開ける彼女を笑う。
その隣にいる桐谷からは、殺意のこもった視線が向けられた。
(額へのキスは、祝福の気持ち)
(どうか、幸せになって下さい)