濃紺に染まる赤を追え。
でもこのクラスの学級委員は紛れも無くこいつで、もしこいつじゃないというのなら、もう一人の爽やかそうな男が蓮を笑顔にしたっていうことになるわけだけど、それだとちょっとまた話が違うというか、何というか、そういう難しいことナミは分かんないわ。
もともと考えることが得意じゃないのに、頭を使ったからだろう。
無性にイライラして、左手の人差し指のネイルが剥げかけていることに気付いて、さらにイライラした。
そのときだった。
「綺麗な声、だったので」
「……は?」
小さく聞こえた声は、地味な学級委員から発せられたものだった。
意味が分からず眉根を寄せると、黒い瞳がゆっくりとこちらを向いた。
「あなたの声、ハスキーだけれど潰れてなくて、すごく耳触りが良いなって思って……」
「意味分かんない」
「あ、えっと、あなたのほうを見ていた理由です。あの、綺麗な声だったからつい顔を上げてしまっただけなので、気にしないでください」
それだけ言って、また教科書へと視線を戻す。
なに。
何なの、こいつ。
あんな八つ当たりみたいな言葉にどう返すか、こいつは律儀に考えてたっていうわけ? ナミがイライラしてる間に? こいつ馬鹿?
そう一通り、目の前の学級委員に対して思いを巡らしたあと、なるほどこういうところか、と納得した自分がいた。
地味で飾り気もない。でも芯があって凛としている。それなのにどこか抜けていて、すぐに壊れそう。
蓮はきっと、これを面白がっていたんだ。