濃紺に染まる赤を追え。



「あ、じゃあ」

「まだあるの……?」

「これ最後だから」


上機嫌で言った桐谷を見下ろして、首を傾げる。


「キスしてよ」

「……え?」

「よっこから」


……なんと?


「無理!」

「はーやーくー」

「絶対無理!」

「よーっこ」


そんな甘えたテノールで言われたって、無理なものは無理です!

今ならわたし、羞恥心で潰れられると思う。


「“何でも言うこと聞く券”は?」

「……う、」


そう言われると、何も言い返せない。

元々わたしが誕生日知らなかったのが悪いんだし。

あああああ、……もう!


「……目、閉じててよ?」

「んー」

「絶対開けないでね?」

「はいはい」


桐谷が瞼を下ろしたのを確認して、そっと頬に手を添える。

恥ずかしくて仕方ないけど、今日くらいは仕方ない。



唇で、その桜色に軽く触れる。



目を開けると、桐谷は綺麗に笑った。




  ―fin―

「恥ずかしいいい……」
「よっこの太もも、好き」
「もうやだ……」

でも、今日くらいは仕方ない。




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