濃紺に染まる赤を追え。
君を想って作ったの
高校三年生に三学期は存在していないも同然だ。
自由登校になった途端、私たちの学年の下駄箱はスリッパで埋まっていた。
大学受験をする人がちらほらと、それぞれの教室で勉強しているだけだった。
そんな、2月14日。
「堤くん」
空席ばかりの教室で、私は前の席に座っていた堤くんの肩を叩いた。
ちなみに、勉強の邪魔をしないように、堤くんが過去問を解き終えて、ぐっと伸びをした瞬間を狙った。
堤くんは、眼鏡を外しながら振り向く。
「ん?」
「これ、よかったら」
差し出したのは、薄くて赤い小さな箱。受験生の御用達、キットカット。
いつもお世話になっている堤くんへの、感謝の気持ち。
「わ、ありがとう松村」
「いえいえ。いつもお世話になっております」
「こちらこそ」
爽やかな笑顔を浮かべて、堤くんは両手でそれを受け取った。
「ところで、松村」
「ん?」
「隣の人が今にも噛みついてきそうなんだけど、大丈夫?」
そう言われて、隣を見た。
明らかに不機嫌な顔をして、桐谷が堤くんを睨み付けていた。