濃紺に染まる赤を追え。
ギイ、バタン。
青いペンキで塗られた扉が、錆びたような音を立てて閉まる。
その瞬間、ヒュウと冷たい風が吹き付けて、桐谷にぴったりと引っ付いた。
「桐谷、怒らないでよ」
「……べつに」
拗ねたようなテノールに、苦笑する。
堤くんに渡したものが、義理チョコだということくらい、理解しているくせに。
「俺のいる前で渡さなくてもいいだろ」
「桐谷のいないところで渡したら、それはそれで嫌だと思ったのに」
「そんなことしたら許さない」
「やきもちだ」
「……よっこ俺のことからかいすぎ」
むすっとしてそう言った桐谷に、不謹慎にも嬉しくなった。
自由登校になった今年も、桐谷の机にはたくさんのチョコが置いてあった。
どう処理しようかと桐谷が困っていたのも知っているけれど、女の子たちからのあからさまな好意を見ると、不安になってしまうのが私の面倒くさいところで。
でもこうやって、桐谷が私を見てくれているのを実感すると、やっぱりどうしようもなく嬉しくなる。