濃紺に染まる赤を追え。
興味なさそうにそれだけ言って、空を仰ぎながら桐谷は目を閉じる。
シルキーアッシュの髪は、風になびいた。
そっと視線を下ろしていけば、目に入るのはグリーンのカーディガン。
胸元のはだけたカッターシャツから少し見えたのは、綺麗な鎖骨と赤い跡。
それは不特定多数の女の子の所有印。
ああ、また。
そんな空虚な気持ちには、いつものように見なかったふりをして。
わたしは“優等生な学級委員さん”を演じる。
「……なに?」
不意に目を開けて首を傾げた桐谷。
ばっちりと目が合って、慌てて逸らす。
見てたこと気付いてたの、と。
言ってしまえたらいいのだけど、生憎わたしは素直に言葉を発することには慣れていない。
「……シャツ」
「ん?」
「だらしないよ」
考えを巡らした結果、出てきたのはおばちゃんのような言葉。
もう少しマシで、もう少し可愛げのある言い訳があっただろうと、これには自分でも呆れてしまう。
「そうきたか」
可笑しくて堪らない、とでもいうように桐谷は目尻にきゅっと皺を寄せて笑った。
ただ、それだけのこと。
なのに、紅潮していくわたしの頬。
それは桐谷のことが好きだから。
――ただ、それだけのこと。