濃紺に染まる赤を追え。
「俺はさ、とにかく捕まるつもりはないわけね」
「……あ、うん」
そうだ、わたしはこいつを授業に参加させるために来たんだった。
当初の目的を忘れかけていた自分に呆れながら頷く。
「で、ここでさぼってることをばらされると困るわけ」
ガタンゴトン、電車の音がした。
緩やかに風が吹く。
二つ結びの黒髪が、微かに揺れた。
「でも、わたしも桐谷を連れていかないと、仕事にならないんだけど」
反論するように自分の目的を言えば、桐谷は偽りの笑みを顔面に貼り付けて、こう言ったのだった。
「んー、そういえば俺、よっこの愚痴聞いちゃったなー……」
「……あ」
それだけで、桐谷が何を言いたいのか理解してしまった。
勝ち誇ったような笑顔が憎い。
「あれ豚まんに言ったら、どうなるんだろうな」
「……」
「優等生な学級委員さんが、ねえ……」
「……」
「いいのかなー、内申とか」
「分かった、分かったから」