濃紺に染まる赤を追え。



結局、折れたのはわたし。

誰にも言わないよ、と呟けば、満足げに笑う。


「ん、いい子いい子」


くしゃり、乱された二つ結び。

頭上の重みに驚いて顔を上げると、またけらけらと楽しそうに笑う。


掴み所のない人だ、と思った。


ぼんやりしているようで、ケモノのようで。

寂しがりのくせに、唐突に笑い出すし。


だけど、その笑顔も綺麗すぎて、まるで作り物のようだった。



空を眺める桐谷の横顔は何を考えているのか、いまいちよく分からなかった。

ただ、穏やかに過ぎる時間は居心地がよくて。

つい、わたしもその隣で、空を眺めていた。





そんなわたしを現実に引き戻したのは、三限目終了のチャイム。

またさぼるわけにもいかないので、仕方なく立ち上がる。


「……桐谷」

「んー?」

「四限目は、来ない?」


どんな答えが返ってくるか分かっていながらも、一応そう聞いてみた。

すると、案の定首を横に振った桐谷。


「そっか」


呟き、濃紺のスカートを軽く叩く。

じゃあね、とその場を立ち去る。




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