濃紺に染まる赤を追え。
そして、青いドアの前で一度立ち止まり、振り向く。
桐谷は、空を仰いだまま。
「……桐谷」
小さく呟く。
返事は無言だけど、きっと聞こえているのだろう。
「明日も、来ていい?」
吐き出すようにそう問いかけてから、はっとした。
なに、を。
わたしは何を言っているんだろう。
「あ、いや、えっと、別にまたここに来たいとかそういうことじゃなくて……」
咄嗟に付け足した言葉は、言い訳のように響く。
「ほら、屋上綺麗だし、わたし三限目は桐谷を探しに行かなきゃいけないから……」
どうしてわたしはこんなに必死に、ここに来る理由を探しているのだろう。
尻すぼみになる言葉。何を言っても逆効果な気がして、ぎゅっと唇を噛んだ。
不意にひらり、動いた右手。
日の光で、きらりと輝いた中指のシルバーリング。
まるでその手は、早く行け、と言っているようで。
乾いた息をひとつ落とし、ノブに手をかける。
近くの線路を電車がガタンゴトン、走っていく音が微かにした。
ギイ、扉を開ける。
バタン、扉を閉める。
その直前聞こえた桐谷の声。