濃紺に染まる赤を追え。
「よっこがキャラメル持ってるとか、珍しいね」
「あー、うん。昨日担任から貰って」
「ふーん」
さわさわと、下のほうで常緑樹が揺れる音がした。
初夏の今、緑の葉が一層鮮やかに見える。
運動場には体育中の青いジャージが点々と散らばっていた。
遠くに見えるのはビルやマンションや住宅地。
せっかく見晴らしのいい屋上なのだから、もっとこう、海とか山とかが近くにあればいいのに、なんて。
今さら変えられるわけがないのに、そんなどうしようもないことを考える。
「桐谷」
「んー?」
「それおいしい?」
「超絶おいしい。世界一おいしい。こんなの初めて食べた」
「え、……ええ?」
「うそ、普通にキャラメル」
普通にキャラメルって、そりゃそうか。
こんなしょうもないこと聞いてどうするんだ、自分。
そうは思いつつも、他に話題を見つけられないのだから、仕方が無い。
何もすることがなく、体育座りをしてスカートの裾を引っ張ってみる。
すると隣で、桐谷が寝転んだ気配がした。