濃紺に染まる赤を追え。





そう文句を言いたいところだけれど、隣からはすでに寝息が聞こえている。


どうしよう。



これは一緒に寝ようって解釈でいいんだよね。

でも、こんな状態で寝られるわけがない。


左の手首は、いまだ彼の右手に拘束されたまま。

教室に戻ることも出来ない。


とりあえず、この至近距離ではわたしの心臓が持たないから、ちょっとだけ右に移動して。

そしてまた、桐谷の寝顔を見つめてみる。


憎たらしいほどに顔のパーツすべてが整っていて。

そのパーツがまた綺麗に並べられている。



この顔で、今までどれだけの女の子を落としてきたのだろう。

どれだけの女の子に愛を囁いたのだろう。


不意にそんなことを考えてしまう。

けれど、キリが無さ過ぎてやめた。



「……きりたに」


返事がくるわけではないともちろん知りながら、小さく呼んでみる。

すると、無意識なのか、少しすり寄ってきた桐谷。

さっき開けたちょっとの距離が埋まってしまったため、動悸が再開。

心臓は落ち着きを知らない。


そんな中。




「……いかないで」


ぼそりと桜色から落とされたテノール。

思わずそれに目を見開くけれど、桐谷が起きる気配はない。



少し、強い風が吹いた。

めくれそうになったスカートを右手で抑え、微かに揺れるシルキーアッシュを見つめる。




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