濃紺に染まる赤を追え。
「桐谷、四限目は?」
「……」
行かない、のか。
無言の返事をそう解釈して、心の中で溜め息を吐く。
つまらないな、なんて思うけれど口には出さない。
口に出してしまえばきっと、この心地よい空間は一瞬で崩れてしまう。
「よっこ」
「ん?」
くしゃっと乱された二つ結び。
何事かと見上げれば、シルバーリングを中指にはめた右手が離れていく。
すっと細められた瞳。
「何すんの」
「ん、べつに」
いかにも楽しそうに、ゆるゆると口角を上げる。
悪戯っ子のようなその笑みに、鼓動が速くなるのを感じながら立ち上がった。
そして、ドアへと歩きだす。
近くの線路を電車がガタンゴトン、走っていく音が微かにした。
ギイ、扉を開ける。
バタン、扉を閉める。
その直前聞こえた桐谷の声。