濃紺に染まる赤を追え。





「“empty”……あれ、何だっけこれ」


交差点の近くにタクシーが停まっていて邪魔だったから、その横をすり抜ける。

そのまま右折すると、すぐそこに見えた駅。

この学校は駅が近いから便利だ。


一旦暗記カードから目を上げて、自動改札機にピッと定期を通す。

階段を上って、二番ホームに立つ。


良かった、あと2分で電車来る。

しかも急行だし、今日はツイてる。


内心ガッツポーズをしていると、ちょうど流れたアナウンス。

耳でそれを聞きながら、結局“empty”の意味が分からず、その裏を見た。



けれど。




その直前、視界に飛び込んできたグリーンのカーディガン。

勢いよく顔を上げて、その姿を二度見する。


同じホームのちょっと向こうにある柱に隠れて、あまりよく見えないけれど。

でも、絶対桐谷だ、と確信を持てるのはちらりとシルキーアッシュが見えたから。


どうしよう、これは声をかけてもいいのかな。

いっそのこと、ノートいるかどうか聞いてみる?

いや、わたしにそんな勇気ないし、無理無理。

でも学校以外で見たのとか初めてだな。

レアだし、眺めててもいいよね、うん。


そう自己完結して、もう一度桐谷を見る。

ホームには、電車が入ってきた。

プシュー、と音がしてドアが開く。

降りてくる人を優先して待ちながら、視線はその先の桐谷に向けていた。






でも。




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