濃紺に染まる赤を追え。
分かっている。
知っている。
桐谷が遊び人で、女の子なら誰でも良くて。
寄ってくる女の子みんなに、甘い笑顔を振り撒いて。
人一倍寂しがりで、常に誰かの温もりを求めていて。
猫みたいに気まぐれだってことくらい、承知してた。
でも、どうして。
どうして、足が動かないの。
ガタンゴトン、電車が去っていく音がした。
ホームにわたし一人残したまま。
楽しそうな二人を見送って、乗れるはずの電車を逃がした。
同じ車両に乗ろうと踏み出せるほど、わたしの心は図太くなかったみたいだ。
「……あと8分待たないと」
吹いた風が、二つ結びを揺らす。
向かいのホームはもうすぐ電車が来るようで、人でごった返していた。
疲れきっているように見えるサラリーマンや、わたしと同じ制服を来た学生や、忙しそうに電話をしているOLや。
たくさんの人が、それぞれのことをしていた。
そんな様子を見て突っ立ったまま、暗記カードを握り締める。
「“empty”……虚しい」
呟きは、向かいのホームに来た電車によって掻き消された。