濃紺に染まる赤を追え。



そうやって言えば、わたしが折れることを知っているんだろう。

いつもならここで許してしまっていたけれど、今日のわたしは違う。


「桐谷」

「ん?」


首を傾げて返事をする桐谷の目の前に、手に持ったそれを差し出す。

切れ長の瞳は、一瞬不思議そうにわたしを見たあと受け取って言った。


「何これ、ノート?」

「うん」


きょとん、という効果音でも付きそうだ。

その端正な顔に似つかわしくない表情に、きゅんと胸が鳴りそうで、慌てて首を振った。


「あのね、これは交換条件です」


すっと背筋を伸ばして桐谷を見つめる。


「期末テストまでにそこに書いてあること覚えてくれたら、ゲーム機のこと言わないよ」


そう言ったわたしの心臓は、少し大きく音を立てていた。

桐谷はなおもノートを持ったまま不思議そうな顔をしている。

何も言ってこない桐谷に、決まりが悪くなってまた口を開いた。


「えっと、桐谷、期末テストで赤点あったら卒業危ないんでしょ」


だんまりを突き通す桐谷。

それは分かっているからなのか、知らなかったからなのか。

真意は分からないけれど、わたしは今までにないほど饒舌で。


「それだけ暗記したら、きっと赤点ないと思うから」

「……」

「えっと、だから、その……」

「……ふーん?」


物珍しそうに、わたしが渡したノートを見る。

ぺらぺら、音を立ててめくられていくそれに、やっぱりお節介だったかな、と思ったり。




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