濃紺に染まる赤を追え。
「桐谷ってテスト来る気あるの?」
考えても仕方ないことを振り払うようにそう問う。
「社長出勤するから、多分別室受験だろーな」
「……」
社長出勤は決定事項なのか。
でも確かに、今までテストのときに桐谷の姿を教室で見たような覚えはない。
「ふーん、そう」
「ん」
「……」
「……」
とくにすることもなく、空と向き合う桐谷の横顔を見る。
ルビーのようなピアスは、日の光で輝き、自己主張をしていた。
「あ、そうだ桐谷」
「ん?」
「昨日鍵しなかったけど、大丈夫だった?」
ふと思い付いた疑問を口にすると、桐谷はわたしを見た。
「いや? 俺、ちょっと前から鍵してない」
「は?」
まさかの返答に、色気もくそもない言葉が落ちる。
「え、何それ」
「そういうこと」
「いや、意味不明」
顔をしかめると、桐谷は愉快そうに笑った。