濃紺に染まる赤を追え。





「あ、そうだ松村」

「?」


思い出したように呟いた堤くんに首を傾げる。


「ちょっと待って、引き出しにあるはず」


そう言って堤くんは立ち上がり、窓際まで歩いていく。

何の話かよく分からないけれど、とりあえずついていけば辿り着いた席。


「……んあ、なに?」

「ごめん、ちょっとどいて」


どーんと堤くんの席に居座るナミさんにそう言いながら、引き出しを漁る。

その様子を見下すようにちらりと見たあと、またスマホに視線を向けるナミさんは、目力の強さと脚を組んでいることで、少し恐そうに見える。

いや、実際恐いけれど。


ぶつぶつと心の中で呟いていると堤くんから、あったあった、と声がした。


「これ、仁科ヒロの新作なんだけど」

「え!」


読む?と差し出されたのは、わたしが好きな作家さんの新作。

大きく頷けば、やっぱり爽やかな笑顔で渡してくれる堤くん。


「ありがとう、堤くん! いつ返したらいい?」

「もう読み終わってるし、全然いつでも大丈夫だよ」

「わ、いいの?」

「うん、いいよいいよ」


笑ってそう言ってくれたから、もう一度、ありがとう、と軽く頭を下げると、堤くんは颯爽と男子の集団に戻っていった。

ほくほくしながら自分の席に座り、貸してもらった本を鞄にしまう。




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