濃紺に染まる赤を追え。
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「あ、松村、そこの鍵締まってる?」
「うん、大丈夫だよ」
自分の席のすぐ横の窓をちらりと見て頷けば、堤くんは安堵したように笑った。
「じゃあ」
「うん、次会うのはテストのときだね」
「そっか、月曜日からだっけ」
思い出したようにそう言った堤くんに頷く。
「野球部はテスト期間なのに部活あるんだね」
「あー、うん。期末終わったらすぐに夏の大会始まるからさ」
「そっか」
大変だな、なんて思いながら呟く。
堤くんはエナメルバッグを肩に掛けた。
「その大会で引退?」
「うん。負けたら引退」
甲子園まで行きたいけど、と付け足すように言って堤くんは笑う。
そっか、とまた代わり映えしない返事をすると、聞こえてきた野太い声。
窓の外を見れば、整列してグラウンドを走っている白いユニフォーム。
「あ、ごめんね止めちゃって」
「いいよ、俺こそごめん、いつも日誌書いてもらって」
「ううん、気にしないで」
じゃあ、とさっきも聞いた別れの言葉を口にして、ドアの向こうに消えていった堤くん。
その後ろ姿を見届けたあと、ストライプ柄のシャーペンをカチカチ鳴らした。