濃紺に染まる赤を追え。




――――――――――――――

――――――――――




「あ、松村、そこの鍵締まってる?」

「うん、大丈夫だよ」


自分の席のすぐ横の窓をちらりと見て頷けば、堤くんは安堵したように笑った。


「じゃあ」

「うん、次会うのはテストのときだね」

「そっか、月曜日からだっけ」


思い出したようにそう言った堤くんに頷く。


「野球部はテスト期間なのに部活あるんだね」

「あー、うん。期末終わったらすぐに夏の大会始まるからさ」

「そっか」


大変だな、なんて思いながら呟く。

堤くんはエナメルバッグを肩に掛けた。


「その大会で引退?」

「うん。負けたら引退」


甲子園まで行きたいけど、と付け足すように言って堤くんは笑う。

そっか、とまた代わり映えしない返事をすると、聞こえてきた野太い声。

窓の外を見れば、整列してグラウンドを走っている白いユニフォーム。


「あ、ごめんね止めちゃって」

「いいよ、俺こそごめん、いつも日誌書いてもらって」

「ううん、気にしないで」


じゃあ、とさっきも聞いた別れの言葉を口にして、ドアの向こうに消えていった堤くん。

その後ろ姿を見届けたあと、ストライプ柄のシャーペンをカチカチ鳴らした。




< 66 / 192 >

この作品をシェア

pagetop