濃紺に染まる赤を追え。
「松村、おはよう」
「あ、おはよう堤くん」
鞄を肩から下ろしながらそう返すと、堤くんはいつもの笑みを見せた。
朝から爽やかだな。
ヨーグルトのCMとか出来そう。
「今日にテスト全部返ってくるんだよな」
「うん、先生も毎回毎回、丸付け大変だよね」
「確かに」
堤くんが微笑んだと同時にチャイムが鳴り、教室のドアが開いた。
机の上に乗っていた鞄を下ろし机の横に掛けて、そこを見ていれば、たくさんの書類を抱えた担任が入ってきた。
「おら、席着けー」
担任が教卓に書類を置きながらそう言うと、まだ立っていた生徒はばらばらと座る。
「じゃあテスト返すから、出席番号順に取りに来い」
朝一番でそんなことを言われ、非難の声が教室のあちこちから上がる中、あ行の生徒から立ち上がり、教卓まで結果を貰いに行く。
ちらっと廊下側の一番前の席に視線を向けた。
今日もそこは空席である。
「わ、やっば」
不意にそんな声が聞こえ、顔を上げる。
もう結果を貰ったのか、堤くんがプリントを見ながら呟いていた。
「どうだった?」
「あー、数学があんまり良くなかった」
ほら、と言って見せてきたプリントには、90点台がずらりと並んでいて。
良くないと言うわりに、数学だって85点だ。