濃紺に染まる赤を追え。
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「松村、はいこれ」
乱された二つ結びを直し、頬の色と胸の鼓動を正常に戻してから教室に戻ると、同じ学級委員の堤くんがわたしにノートを差し出していた。
「あ、つつみ、くん」
ありがとう、と呟きながらそれを受け取り、堤くんの後ろの自分の席に着く。
堤くんはにっこりと音がしそうなくらい爽やかに笑い、授業中だけ掛けている眼鏡を外した。
渡されたのは、物理のノートと数学のノート。
分かりやすく纏められた物理のほうは、紛れもなく堤くんのもの。
そして数学のほうは、わたしのものだ。
「いつもありがとう」
「いや、こちらこそ」
二限目、桐谷を探しに行くのは堤くん。
三限目、桐谷を探しに行くのはわたし。
二年生のときからクラス替えなく三年生になったわたしたち。
自然と学級委員も持ち上がりになり、ずっと一緒に学級委員をしている堤くんとの暗黙の了解だった。
出られなかった授業のノートは、お互いで貸し合う。
これも、いつからか決まったものだった。