濃紺に染まる赤を追え。
「なんでなんでっ!?」
「蓮と一緒に再試受けようと思ってたのに!」
きっと、教室中がその集団に耳を澄ましていた。
矢継ぎ早に疑問をぶつけていく女の子たちの声の合間、んー、と考えているようなテノールが聞こえて。
「今回は頑張ったんだよ、俺」
ぽそりと落とした呟きに、また反応する周りの女の子たち。
わたしはその騒がしさから目を離し、お弁当へと視線を戻す。
ナミさんは相変わらずガン見だ。
「なんでいきなり頑張る気になったの!?」
「まじショックなんだけどーっ!」
聴覚だけは、向こうに残したまま。
半分盗み聞きのようなものだけど、他に話している人たちがいないから、桐谷の周りの声が嫌でも耳に入ってくる。
わたしはスパゲッティーをフォークに巻き付けた。
「作ってもらったノート、全部覚えたからなー」
聞こえたそんな声に、スパゲッティーが喉元で突っかえる。
軽くむせながら桐谷を見たけれど、女の子たちに隠れて見えず。
ただ、さらに大きくなったざわめきだけが届いた。