濃紺に染まる赤を追え。





たったその一言で、すぐに静まり返る集団。

代わりに教室に聞こえたのはスピーカーから流れていた音楽。

放送部が毎日お昼休みに放送しているのは知っていたけれど、こんなにちゃんと聞こえたのは初めてな気がする。

教室を見渡せば、誰ひとりとして話している人はいなくて。

みんなが、スピーカーに耳を澄ましていた。




「ボーカルの声とか、神でしょ」



独り言のような呟きひとつで、わたしはボーカルの声に耳を傾ける。

きっと教室にいるみんながそうしていた。


桐谷蓮という人の影響力というのは、どれほどのものなんだろう。

教室中のみんなが、桐谷が好きだと言ったものに耳を傾けて。


高音から低音まで伸びやかに歌うその声は、確かに綺麗だと思う。

でも、この曲を聞いたことも無ければ、何というバンドなのかさえも知らなかった。




「聞いたこと無いわ、これ」



呟いたナミさんに頷く。




「けど、なんかいいと思う」


その呟きに、わたしももう一度頷いた。


きっと教室にいたみんなが、そう思っていた。






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