濃紺に染まる赤を追え。
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「れーんっ、行こっ」
HR終了のチャイムが鳴ると同時に聞こえたのはそんな声。
今日はあの子か、と思いながら見ていると、桐谷は口元に妖艶に弧を描いてその子の手を取り、ドアの向こうに消えた。
「……はあ」
小さく息を吐き出す。
授業中は寝ていたり、先生をいじってみたりと散々だったけれど、それでも桐谷はずっと教室にいた。
「なんか、嵐が去っていったって感じだな」
聞こえた声に顔を上げると、座ったまま振り返っていた堤くんと目が合った。
「桐谷効果すごいよな。女子があんなに授業中寝てないの、初めて見た」
「そうだね、みんな桐谷観察してたよね」
笑いながら口にする。
かく言うわたしも、そのうちの一人だ。
「けど、なんで急に来たんだろう」
「気まぐれじゃない?」
「ははっ、そうかも」
堤くんはそう言って立ち上がり、窓の鍵を閉めに行く。
教室にはほとんど人が残っていなかった。
「松村、そこ閉めて」
「うん」
言われて自分の横の窓の鍵を閉めていると、残っていた最後のグループが教室から出ていった。